「君の行方」  「少女」より


 「う……わあっ」
 滅多にしない整理整頓なんてものをしようと思ったのは、ただの現実逃避ってヤツだ。
 言ってみれば、明日がテスト。
 参考書を探しているうちに棚の上の乱れが気になってきて、ついうっかり手を伸ばしたら、つかみ所が悪かったらしい。
 雪崩れだ。
 どさどさ、どさどさと次々に本やらメモやらノートやら紙やらが落ちて来た。
 一瞬で足の踏み場が無くなる。
 勉強どころじゃねぇなと思った途端、後悔が襲ってきた。
 こんなことしている場合じゃないんだ、という後悔だ。
 そうだ明日のテストはやばいんだ。と思い切り、とりあえず落ちてきたものを一山にまとめ出す。
 と、抱えた紙束の間からはらりと何かが舞い落ちた。
 後ろ向きに落ちたそれは、一枚の写真。
 ただ反射的に手を伸ばしひっくり返し、そして硬直する。


 見なければ良かった。
 今まで忘れていたはずなのに。
 苦い、冷たい何かが背中をせり上がってくる。
 手の中にあるのは白黒写真。少女の写真。
 少し挑戦的にカメラを見ている少女。

 この写真を残して、彼女はいなくなってしまった。
 川に落ちたか誘拐されたか、とにかく親達は彼女を探し回った。
 しかし犯行声明も死体も見つからず、今に至る。

 彼女は僕をいじめ続けた。
 僕は彼女を憎み続けた。
 死ねばいい、死ねばいい。死んでしまえ死んでしまえ。
 この写真を撮ったのは、僕だ。
 まさか呪いの道具にされるとは思わず、彼女は気取ってカメラの前に立った。
 僕は、彼女に刃物を振り下ろす感覚でシャッターを切った。

 僕が彼女を殺したのだろうか。


 「何よ、すごい音したわよ」
 ノックしながら姉が入ってくる。そして立ち尽くす僕の手の中の写真を見、
「あぁ、結局見つからなかったわね、この子」
 とあっさりそう言った。

絵 裏
文 深瀬 書き下ろし(020427)

ヒトコト 思い入れの強い絵なので、人様の感性との融合が出来るのは喜ばしい限りです。
深瀬 元々、裏氏に献上した作品です。(なので、この作品の方が書いた日付が早いのです。)
この作品のキーパーソンは姉です。他人なんてこんなものよと言いたかったので……。

 

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