― 異人館で逢いましょう ―

『え〜、今オレは、『異人館』と別名に呼ばれているD隊入り口にいまっす。何の捻りもないです。異人館だから異人館。何故D隊が異人部隊と言うかといいますと、字のまんま人外部隊だからです。フリークスを始めとしたミュート、モンスターなどがこの壁の向こうにみっしり存在しているわけです。ちなみに、そんな外道どもを統括していやがるのが、D隊隊長、トリューガー。冷淡残酷で、解剖好きな外科医のイメージ。何をやるにも陰湿だから、俺は大嫌い。D隊の扉が赤黒いのも、ヤツの人体実験の犠牲者の血が塗り込められているって噂で……』

「何してるの?」
「うぃ?」
 腰の辺りから聞こえた、甘えた声に、リッツは顔を落とす。
 と、件の扉を半開きにし、その間から可愛らしい顔が覗いていた。
「どーしたん? ダイアナ? さてはトリューガーに変態なことをされたとか?」
「トリューガー様は、変態なんかじゃありません。そう勘ぐるリッツの方が、よっぽど変態」
 見た目は、ゴスロリ系の服をそのように着こなす、美少女である。
 小作りの顔を取り巻く、良く手入れされた金髪はゆるくカールし、腰近くまで美しい流れを作っている。
 顔の中でまず目立つのはその瞳だろう。
 トルマリンブルーの大きな瞳は、良く動き表情を見せるようで、実は氷の様に冷たい。
 唇の色は、赤。しかし小さく可愛らしいので、その濃い色もアクセントのように白い肌に似合っている。
 外見年齢は12歳程度だろうが、本当はどうか判らない。外見と内面の温度差が激しいのが、ここD隊隊員の特徴でもあった。
「あーはいはい。ダイアナはトリューガー命だよなぁ。何処が良いんだかさっぱり判らんが」
「判ってどうするの? そこから理解を始めるのでしたら教えてあげても構いませんが、それより自分のパートナーとちゃんとした接触をしていない人に、判るわけないと思いますわ」
 鼻を鳴らさんばかりの台詞に、リッツの腰が軽く引けた。
 確かに、リッツと彼のパートナーであるブリジットとの関係は、今丁度微妙なところにある。
「そういう大人の事情に首を突っ込んじゃいけないと思うぞ」
「ダイアナだってLメンバーとして、そういう状態に置かれたブリジットを心配してるのよ。アップデートをすることで、私達は活性化するのですから」
「えー、じゃつまり、何?」
 思わずわかんねぇと言う顔をしてしまったリッツに、やれやれといった感じでダイアナは続ける。
「あなた達、Rメンバーの情報はすぐに劣化してしまうの。その劣化を防ぐのに、相当のエネルギーが必要なのよ。それより、毎日のアップデートで更新を繰り返した方が、ダイアナ達にとっても負担が少ないの」
「し……、知らなかった……」
「確かに、これは公のデータではありませんわ。エースもアマンダおねぇさまも知らない事よ。でも、あそこは毎日きっちりしてるし、ティエンだってクラリスに随時……」
 何故そんな事を知っているのか聞くよりも、衝撃的な事実がリッツを襲った。
「えぇ! ほんとにしてねぇの俺だけ?!」
「そう。腰抜けのアナタだけ」
「いや、でもまだイクスが……」
「あの子の場合はまだ状態が安定していないから、エマもイングリットもそういう調整を受けていないわ。だけど、出来るようになったら躊躇わないと思うわ。イクス」
「うっわー。確かに」
「キス一つで何をためらうのかしらねぇ」
「まだ初潮もこない女の子に諭される俺ってなんだか情けない?」
「初潮は来ました! ダイアナはこのカタチが気に入っているからしているのよ! 人の趣味にいちいちケチつけないで!」
「トリューガーは、ほんとにダイアナで良いのか?」
「もちろん! ダイアナがこうであっても、トリューガー様が迷惑な事はないわ」
「その自信少し分けてくれよ」
「おことわり。Rメンバーなんだから、自分で方法を探しなさい」
「ところで、トリューガーは?」
「なに、珍しい。トリューガー様に様があるの? あなたから?」
「いやいやいやいや! あいつに用事なんて全くナイ! むしろそんなもん要らない! いないならその方が好都合!」
「本当に、トリューガー様のこと、苦手なのね」
「俺が苦手なんじゃねぇ! ソリが合わねぇんだ! あんな卑怯者と合うソリがあったら見てみたい……」
「……」
「……、ダイアナは、トリューガー命だから、っと、えーっと」
「別に、そういうの、慣れてるから」
 さらりと言いのける口調に、フォロー不能の響きを感じ、リッツはしばらく口をパクパクさせる。
「あー、じゃあ、オレはそろそろこれで。で、次はダイアナの番な。リストはこれ。説明は、リストの後に書いてあるから」
 慌てたままレコーダーとリストを手渡し、リッツは片手をあげる。
「それじゃ、あとよろしく!」
 気まずく駆け去りながら、ダイアナに似合うリボンとかアクセサリーとか、何処で売っていたっけなと、必死に脳内検索するリッツであった。

 「えぇっと。リストの次は、「ろくな男じゃありません」ね。ろくな男、ろくな男……。ろくな男って、なに?」
 そして、手渡されたリストを眺めながら、小首を傾げるダイアナが残された。



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企画 古戸マチコ
 文 深瀬 書き下ろし(05.09〜)

 

 

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