― ろくな男じゃありません ―

『ろくな男と言うのがどういう男を示すのか、ダイアナには判断できかねるので、男の事と言えばアマンダおねぇさまに聞くしかありませんわ。ですので、今現在ダイアナは、A隊前にいます。A隊はB〜E隊を仕切る隊で、つまりD.D.と呼ばれる私達のリーダーですわね。A隊は現在、一番少ない人数で様々な作戦に対応しております。これは、隊長のエースよりもアマンダおねぇさまの手腕かとダイアナは思います』

「あら。どうしたの? ダイアナ」
 ノックする前に扉が開かれるのは、A隊の特徴ね、とダイアナは開かれた扉を見て思う。
 どういう仕組みかしばらく考え、結局リッツの所為にしておくのが妥当だと、ダイアナは結論付ける。
 あの猪突猛進がA隊の扉を叩き壊す有様など、想像しなくても目に浮かびそうだ。
「ええ、実は」
 ざっと今までの流れを話し、
「ろくな男、と言うのがダイアナには具体的にわかりませんでしたので、おねぇさまなら教えてくださるかと思って……」
「あらあら」
 包み隠さずダイアナが言うと、A隊、つまりLメンバーの長女らしい仕草でアマンダはダイアナを招きいれた。
「片付いていないのは許してね。今、前の作戦の報告書を作成しているものだから」
「前の作戦って?」
「リッツとブリジットがマルクトに潜入して、そのまま思いっきり破壊してしまった、作戦」
「それは作戦とは言わないのではないかしら」
「そうね、あの二人に潜入捜査なんて無理だって判っていたのよ」
 諦めたように言うアマンダ。
「B隊って、破壊の為にある部隊だし、その中でもピカ一の破壊力を持つのがリッツだものね」
「B隊の隊長は、力押ししか脳がないのですわ」
「力があるのは大切よ」
「へたれですし」
「リズの愚痴のこと?」
 頷くダイアナに、アマンダは年長者の微笑を見せる。
「その辺は、当事者にしかわからないってところね。ダイアナが心配しなくとも時間が解決するわよ」
「心配なんて、してませんわ」
「ダイアナは、優しいわね」
 アマンダが言うと、憤慨したようにダイアナは肩をすくめた。
「マルクトについては、ある程度情報が取れたら破壊って流れだったのよ。でも、ろくに情報を得られないまま破壊活動に走っちゃったものだから、辻褄合わせが大変だわ」
 全く何があったのかしらね、と、アマンダは腕を組む。その腕の上にたっぷりと乗る胸の形に、ダイアナはしばし羨望の眼差しを向けた。
 アマンダは、女性メンバー随一のナイスバディなのだ。
「それで、これがハーミットの寄越したレコーダーね、何、今回っているの?」
「はい」
 ダイアナが頷くと、仕方ないわねと言うようにアマンダは笑む。
 大人の笑み。ダイアナが憧れる笑みだが、自分には似合わないことをダイアナは知っていた。
「ええっと、それで? リストはまだ二番目なのね。ろくなおとこじゃありません、か」
 一文字ずつ区切るように言うと、アマンダは少し困った笑みを浮かべた。
「ろくな男なんて、定義はないわよ。言葉について知りたければ、クラリスのところで調べた方が早くない?」
「慣用について知りたかったら、そういたします」
「なるほど、言葉の意味としては了解済みなのね」
 ふむ、とアマンダは息を吐く。
「男性に対する評価は、個々により違うわよ」
「理解していますわ。数多くの男性を知っていらっしゃるおねぇさまなら客観的な評価を下せると思いまして」
「嫌な評価をさらっと言うわね。じゃ、お望みの評価。D.D.隊でろくな男じゃない、と言えばまず思いつくのはトリューガー」
「なぜ、ですか?」
「女に対して節操がないからよ。獲物として狩るにしても、素材として狩るにしても、好みのある無しにしても、幅が大きすぎるわ」
「でもそれは、女性に対する態度ではありませんわ。トリューガー様が連れてくるのは、実験対象としてのモノですから」
「その鬼畜ぶりも加えて、ね。私達が守るべき存在を狩ってどうするの」
「ですがそれは、あちらに属するより先に……」
「そうなのよ。トリューガーにはそれが判るから、余計に厄介なのよね。因子を持つものの選別にかけては、トリューガーの右に出る者はいないわ。だから、私達もトリューガーの行動に制約を設けないわけ」
「……」
「もちろん、トリューガーにとってダイアナが一番なのは確実よ。だから、その点はプラス評価ね」
「もちろんですわ」
「次に出てくるのは、リッツ、かしらね」
「二番目なのが癪ですが、それには異論ありませんわ」
「もう少し機微に気を使えば、二番目から脱却できるのにね」
「いっそろくでもない男ナンバー1になってしまえばよろしいのに」
「そういっても、リッツはリッツで可愛いところあるのよ」
「……流石はおねぇさま」
「うん? 誤解しないでね」
「善処いたしますわ」
 微妙に複雑なダイアナを見下ろし、アマンダは少し困った顔をする。
「リズを泣かせなければ、良いのよ」
「そうですわね」
「三番目……、と言っても、ティエンとヴェルトのどちらかと言う話よね。ティエンが清廉潔白か、ヴェルトがそうなのかって言われたら、私はどっちもどっちと答えるしかないわ」
「パートナーとして、ヴェルトを四位にするかと思っていました」
「ヴェルトだって裏に回れば何しているのやら、よ。表に出さないだけだから」
「むっつりってことでしょうか」
「可愛く言えばね」
「……流石はおねぇさま」
「でも、ティエンは潔癖症だから、それが好みの分かれるところよね。クラリスはその辺気にしていないし、ティエンもクラリス以外は対象として見ていないから」
「それは……」
「クラリス以外、から見れば、ティエンだってろくな男じゃないわね。個々で違うってそういうことよ」
「判りましたわ」
「あそこみたいな低温のラブラブも、傍目で見ていて時々ちょっかい出したくなるけれど」
「……流石はおねぇさま」
「イクスに関しては、調整槽に入ってばかりだから評価は出来ないわね。エマとイングリットがいるのだから、それだけでも贅沢と見られるかもしれないけれど」
 それも、イクスの特性からすれば仕方ないけれど、とアマンダは呟く。
「イクスは、いつ出られるんですの?」
「短期の作戦なら出せるけれど、長期になると崩壊を起こすから無理ね。短期決戦の最終兵器として使うのなら使いようがある、と、思うけれど、気になるの?」
「エマが、寂しがっていましたから」
「そうね、しばらくは調整槽入りだから、ダイアナ、エマをよろしくね」
「判っていますわ」
 しっかりと頷くダイアナに、アマンダは笑みを浮かべる。
「それで、ろくな男については理解してもらえたかしら?」
「何となく、ですけれど」
「男なんて、何となく、で充分よ」
「判りましたわ」
 にっこりと、花のような笑みを広げるダイアナに、アマンダも笑みを返す。
「ダイアナにとって、トリューガーが一番と言うのは大切な事なのよ。もちろん、トリューガーにとって一番でいられるように、頑張りなさい」
「もちろんですわ」

 丁寧にお辞儀をして扉から出てゆくダイアナを見送り、アマンダは次のリストに目を落とす。
「『パラボラアンテナ危機一髪』ねぇ」
 そういうシチュエーションに、心当たりはあった。
 パラボラアンテナが危機一髪に陥った、あの馬鹿騒ぎ。
 何の勢いでパラボラアンテナ争奪戦になってしまったのか、今思い出しても頭が痛い出来事。
 一旦リッツの元に行こうかと考えたが、ルールを思い出しその相手を変える。
「ヴェルトが戻ってくる前に、渡してしまった方が良さそうね」
 呟き、アマンダは立ち上がった。



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企画 古戸マチコ
 文 深瀬 書き下ろし(05.09〜)

 

 

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