―― パラボラアンテナ危機一髪 ――

『状況説明。現在、C隊入口。時刻1400。リスト『パラボラアンテナ危機一髪』より想定される相手として、クラリスを上げる。クラリスは情報収集活動を主とするC隊のメンバーであり、Lメンバーナンバー2でもある。私、アマンダの助手を良く務め、その手腕に助けられる事も多い。虚構と真実の入り混じる情報に対し、的確な判断と相当のユーモアで解析することは、戦略面でも非常に重要な立場におかれても遜色ない実力があると私は信じている。ただ……』

「アマンダ?」
 怪訝そうな顔が、アマンダを見詰めていた。
 誰だって、入り口で独り言を呟いていたら、怪訝な顔をする。
 自分はダイアナに対し、そうしなかったかどうかを思い出し、アマンダは、
「少し、良い?」
 と取り繕ったように告げた。
「中でどうぞ」
「良いの?」
 C隊の中に招き入れられる事は、滅多にない。驚きと共にアマンダが問うと、
「今、メンテナンス中ですから」
 と簡素に答えられた。
 アマンダとは対照的にすらりとした肢体を持つクラリスは、どちらかと言うと中性的で、顔立ちも彫りが浅い。
 黒髪黒瞳は相方であるティエンと同じ。
 濃い緑のざっくりとした服装は、彼女が装置に繋がる時、邪魔にならないよう作られている。
 自分の隊の部屋よりも凹凸の多い場所に招き入れられ、アマンダは珍しそうに周りを見回した。
「珍しいですか?」
「もちろん。C隊に対しては、私だって知らないことが多いわ」
「私達の行動は、味方にも知られない事が前提ですから」
「隠密活動、だったかしら?」
「ティエンが好んでそういっているだけですよ。実際には情報操作の方がメイン」
「というと?」
「人を消すにあたって、B隊の様に具体的に壊してしまう方法と、私達の様に『いなかったことにする』方法とがあります。D隊の方々が変異者を連れてくるたびに、私達が操作して『いなかったこと』にしているんです」
「大変ね」
「トリューガーにもう少し節操があれば仕事も減るのですが、それを望んだらD隊の存続が難しくなりますからね」
「じゃ、結局クラリスの仕事の殆どが、トリューガーの所為なの?」
「平和な証拠です」
「そういう認識は大事ね、でも」
「今回のメンテナンスが終われば、C隊の子達にもそれぐらいの操作が出来るようになるでしょう。今まではティエンが仕込んでいましたが、そろそろ私の仕事も覚えていただかないと」
「繋げるってこと?」
「その辺りについては、ハーミットとテンペラントが関わっていますから」
「本格的ね」
「ですが、私の様にはなれないと、お二人とも残念がっていました。私があと何人かいれば、情報索敵もレベルアップすると」
「仕方ないわね、あなたは一人しかいないし、そんな事よりも大切な事が私達にはあるでしょう?」
「それは、私達の基本構造ですから」
 言い、クラリスは肩をすくめる。
 彼女のように特殊な能力を保持してしまうと、Lメンバーとしての存在と、それ以外の存在との釣り合いが難しくなる。
「それについての解決策も、ないではないですよ。この間リッツとリズの二人のやり取りに知恵を出したのは私ですから」
「ああ、『交換日記』ね」
 くすりとアマンダは笑い、クラリスはにこりと笑う。
「あれは、良いアイディアでした。フローオーバーする前に、私もああいう形でティエンを保持する事にしましたから」
「そうね、あなたには必要だわ」
 アマンダも、同意する。それは彼女らの存在を揺るがすシステムなのだが、クラリスと言う存在に釣り合う方法は、他にない。
「ところで、アマンダ、それが目的ではありませんよね」
 椅子に落ち着き、出されたお茶を口にした後、クラリスの方から切り出した。
「そうそう」
 言われ、取り出すレコーダーとリストと説明書。
 口で説明するよりも先にそれらをクラリスに手渡し、アマンダはもう一口お茶を飲んだ。
「また……、非効率なことを」
「そう? 私は面白いと思ったけれど?」
 こうしてC隊の中を見られたからねとアマンダは笑む。
「『パラボラアンテナ危機一髪』と言われて、思い当たる事がアレだったのよ」
 困ったようにアマンダは言い、ああ、アレですか、とクラリスが答える。
「あの時は最低でした」
「リッツの電撃と、ヴェルトのソニックウェーブがぶつかり合う、なかなか見られない光景だったけれど」
「アマンダは、あの二人の日々のやり取りを見ていてそう言えるんですか?」
「私が見ている前では、いつもヴェルトがリッツをやり込めているわよ」
「アマンダの前では、リッツも手加減するしかないですからね。本気の力押しだけならば、リッツの電撃はD.D.隊一ですよ」
「そうなの?」
「純粋にあれを押さえ込めるのは、メジャー隊のチャリオットかストレンジぐらいですよ」
「そうなの?」
「リッツはそのために特化されていますから。ヴェルトがそれをあしらえるのは、特出した戦闘センスの持ち主だからです」
「そうなの」
「ティエンが面と向かってリッツと対立しないのは、それを知っているからです」
 言われ、アマンダはパワーバランスについて考える。
 確かに、ティエンの立場は常にヴェルトの補佐であり、暴走するリッツ対ヴェルトとティエンと言う状況が多かった。
「リッツに、もう少し戦況を見る目があれば、いつもいつも良いようにあしらわれる事がなくなるのですが」
 二週間に一度は行われるリッツとトリューガーの衝突、一ヶ月に一度は行われる、リッツとヴェルトのおっかけっこ、その合間を縫うような、リッツの破壊活動。それらを思い返し、二人はほぼ同時にため息をつく。
「リッツがトップファイブから転落しないって、そういう意味なのね」
「転落したら、枷がなくなって作戦が破綻しますから。それよりも経験を積ませてA隊に入れてしまったほうが得策です」
「そうすれば、ヴェルトも楽になるかしら」
「それは、何とも」
 はっきりしない答えに、アマンダは苦笑するしかない。
「その日、が来るのを楽しみにするしかないわね」
 その点については、先送りにするしか方法はなかった。

「『二枚目と三枚目』」
 渡されたリストを眺めながら、クラリスは考える。
 単純に、二枚目であればヴェルトを、三枚目であればリッツを思い起こすのだが、それが同時に存在するとなると少し厄介だ。
「ギャップが激しいとか、そういう方向で行けば良いのかしら」
 そうすると、思い当たる相手は限られてくる。
「でも、良い機会だわ」
 小悪魔のような笑みを浮かべ、クラリスは出かけることにした。



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企画 古戸マチコ
 文 深瀬 書き下ろし(05.09〜)

 

 

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