―― 二枚目と三枚目 ――

『私達D.D.隊の直属上司、ジャッジメントをご紹介いたします』

 小悪魔の笑みと共に、クラリスはレコーダーをジャッジメントに向けた。
 黒を基調とする制服が多いメジャー隊の中で、彼は白を基調としている。
 体格は長身、細身。赤い瞳と白い髪。
 両手には手袋。額にはバングル。
 それが、ジャッジメントの特徴でもある。
 今は滅多に表に出てこないが、D.D.隊が作られるまではジャッジメントが戦闘の矢面に立っていた、らしい。
 もっとも、具体的な矢面に立っていたのは、ジャッジメントではなくチャリオットの方なのだが。
 ジャッジメント、チャリオット、ストレンジの三人で、戦う三羽烏と呼ばれていた時期があるのを知っているのは、メインシステムに繋がる事の出来るクラリスと、メジャーメンバーのみである。
「それで?」
 限りなく暗い瞳で見返されても、クラリスは動じなかった。
 死んだ魚の目は見慣れているクラリスである。
「『二枚目と三枚目』と言われ、思い当たるのが貴方でした」
 悪びれもなく笑みを浮かべ、クラリスはレコーダーを彼の目前に置く。
「ルールに則って、これはあなたにお渡しいたします」
「困ったね」
 ぼんやりとした口調で困られても、とクラリスは思う。
 ジャッジメントは現在不活性状態にあり、そのため、死んだ目をしている。
 通常稼動のジャッジメントを前にしたら、ヴェルトでも太刀打ち不可能だ。
 だがしかし、クラリスはジャッジメントがこの状態である事を知っている。
 知っていたからこそ、今日の行動である。
 多層防御されている彼の自室を得意の割り込みでこじ開け、無理矢理乗り込んだ。
 そして、クラゲと化しているジャッジメントに出会った。
 そこまでして出会った彼は、なんだかもう、別人と言っていいほどにやる気がない。
 話には聞いていたけれど、とクラリスは小さくため息をついた。
 D.D.隊よりも上位に属するメジャー隊、特に直属上司であるジャッジメントと直接やり取りするのは、ヴェルトとティエン、そしてクラリスぐらいである。
 D.D.隊のトップファイブともなれば、サーティーズに組み込まれてもい、立場的には同等になるのだが、メジャー隊とは距離を置きたい連中ばかりが揃っている。
 リッツとチャリオット、ティエンとテンペラント、トリューガーとデビルのように、それぞれの師に対しては親密な態度を取るが、それ以外となると交流も少ない。
 例外的な存在としてハーミットがいるが、彼はD.D.隊の生みの親とも言えるのだから気さくにやり取りできないと逆に弊害が起こる。
 なお、ヴェルトの師はジャッジメンドなのだが、この二人の関係は師弟のそれよりも上司部下のそれの方が意味合いが強くなってしまっているのが現状であった。
「そもそも、リストが47もあるなんて異常です。何処から持ち出してきたか知りませんが、貴方が持ち出してきた話です。少しは貢献してください」
「参考文献については、リストの一番下にリンクが貼ってあるが」
「少なくとも今は関係ありません」
 ぴしっと答えるクラリスの方が立場が上に見えるのはなぜだろう。
 活動状態にあるジャッジメントは、それはもう部下から見ても惚れ惚れするほどいい男なのに、今はただのクラゲである。
 暖簾に腕押し糠に釘。
 今なら黙って殺されてくれそうだが、危険度が閾値を越えると不活性状態から一気に狂戦士化するので厄介である。
 ちなみに、狂戦士化すると寿命が縮まるので嫌だ、とこの状態のジャッジメントは良くぼやくのだが、その様子はいい大人が駄々をこねているようでなんだか微笑ましくも憎らしくもあるが、それはまた別の話になろうか。
 活動状態の彼は、ともすれば喜々として狂戦士化するのだから、そのギャップは著しい。
「どちらにしても、D.D.隊だけで47もの話をこなせって言うのが無理ですよ」
「んー、その為のシリーズ越え可、なんだが」
「それよりも先に回せるところに回します」
「んー」
 嫌そうな顔をするジャッジメントに、クラリスは、
「ティエンが仕入れてきた『天使の海老』、分けませんよ」
 切り札を出した。
「あー、それは嫌だなー」
 心底嫌そうに抗議するジャッジメントであった。
 ジャッジメント、ティエン、クラリスの三人の共通話題に、『グルメ』がある。
 ティエンとクラリスは探求の末に、ジャッジメントは体質故に、『美食は素材』に辿りついた。
 存在の長さ故、情報はジャッジメントから流れていく方が多いが、何かと忙しいジャッジメントに変わり、ティエンが仕入れに走るのが基本となっている。
 しかし、『天使の海老』に関しては、ジャッジメントも知らずにいた。
 それ故、今、クラリスは優位に立っている。
 滅多にない機会であった。
 そして。


 非常に嬉しそうな顔で、クラリスは戻っていった。
 手元に残されたレコーダー、リスト、説明書。
 それを持ってゆく矛先は、一つしか思いつけなかった。
 ……例えどんなお題であろうとも、持って行く先はそこに決めた。



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企画 古戸マチコ
 文 深瀬 書き下ろし(05.09〜)

 

 

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