―― 変人は誰だ ――


『変人と言うのには二種類あって、外面は良いものの中身が変人、これはもうどうしょうもないものの、一般的です。しかし、外見は変人で、中身は普通と言う場合、それも変人と言って良いものなのでしょうか。人格がその言葉で傷ついてしまうほどの普通であるなら、この人を変人扱いするのは危険かもしれません。しかし、見た目で判るほどの変人と言うサンプルは少ないのではないでしょうか……』

「と言うわけで」
 朗らかにテンペラントは言葉を紡ぎ出す。
「一緒に変人について考えていただきたいと、そう思いまして」
 言葉と言うのは使い様だなぁと、自らの台詞に感心しながら、そう続けるテンペラントであった。
 テンペラントの目の前にいるのは、目に痛いほどの原色をまとった男、フール。
 中間色を好みとするテンペラントとは真逆に、フールは歌舞伎に出てきてもおかしくないほどの色彩感覚をしている。
 一見真反対の性格のように見え、しかしこの二人は以外と仲が良かった。
 と言うより、フールが悪意にひたすら鈍感なのである。
 柔和そうに見えて案外毒を吐くテンペラントは、その立場上孤立する事が多い。
 誰にでも等しく毒を吐ける存在は、ともすれば煙たがられ追いやられる。
 それが自分の有り様だと知っていても、どうにもならない時。
 テンペラントはフールに笑い飛ばされに行くのであった。
 さらに、自虐的になりたいときは、ハングマンの所で二人してウツに陥ると言う高等技を使う事もあるのだが、そんな二人を引きずり出すのもフールの役割となっている。
 良く考えれば、結構イタイ三角関係であった。
 さて。馬鹿笑いを得意とする彼は、以外にも作戦参謀の一翼をになう。
 理由は、彼の発想がとてつもなくアレだからだ。
 〈できそこない〉に常識は通じず、集積データも統計も役に立たない時、突拍子もない作戦が功を奏する事がある。
 的確なデータに従った基礎作戦の上に彼の奇天烈な作戦を組み合わせたとき、以外にも成功する事が多く、ハイエイト創立時に〈役立たず〉扱いであった彼が今では作戦参謀となっているのだから、まさしく何とかと刃物は使いようなのである。
 ちなみに。『スカウト』においてフールは案を出した事がない。
 理由は、『常識人の相手はつまらない』からである。
 閑話休題。
「変人、ねぇ、テンちーは自分の事を変人だと思ったときはないのかなん?」
「無いです。そのような考え方は、持った事もありません」
「テンちーは真面目だからねぇ。まぁ節制と調整を担うパートとしては仕方のないところなのかもしれないけれど」
「貴方の様にふらふらへらへらしていられたら、どんなに楽でしょうと考えることは多々ありますが」
「うん、楽。非常に楽。俺様天下泰平。ま、対が対だから、これぐらいで丁度良いんじゃなぁい?」
「それは貴方の勝手な思い込みではないかと。マジシャンでさえ、貴方のちゃらんぽらんさには手を焼くようですよ」
「ちゃうちゃう。チャウチャウは犬。喰うと美味いってホントかな?」
「知りません。そんな絶滅種の事は」
「ダメだよテンちー、そうやって自分の知識を狭めるようなことしちゃー」
「滅びたものが蘇るほどのスペースは、残念ながらありません。フラスコの大きさは限られているのが定めです」
「確かにねぇ、植物性はともかく、動物性タンパク質の多くが合成になっちゃって、天然資源を得るのが面倒になっちゃったからねー。そりゃ金を積めばいくらでも作ってあげちゃうけど、クローニングも面倒くてねー」
「作るって……」
「特殊技術だよん。方法は企業秘密でね。元々ジャッジの偏食を補うために始めたんだけど、余ったからつーい流通させちゃって」
「つい、じゃないでしょう、つい、じゃ!」
 とりあえず殴ってみるテンペラントであった。
 あーんいたァい、と、大袈裟に頭を抱える姿に、テンペラントは思いっきりため息を吐きつける。
「だから天然素材とか何とか言って非常識な贅沢がまかり通るわけですか。よっく考えなさいよ今の状況を! それらを作るためにどれだけのスペースと資材が必要なんですか! その分を……! ……!!」
 小言になってきたので、とりあえずセクハラするフールであった。
 そして、思いもかけずいい反応をしてしまい、真っ赤になりフリーズするテンペラント。
「まぁ、その辺は企業秘密と言うヤツで」
 いやらしい手付きが堂に入っているフールの天頂に、思わず踵落としを食らわすテンペラントがいた。
 それはもう絵に描いておきたいほど綺麗に決まった踵落としであった。

 ドアが壊れるほどの勢いで閉じられ、頭をさすりながらフールはにやりと笑う。
「いや、意外といい形。うん、ぼいんぼいんも良いけれど、ああゆーのもむしろオッケーねー」
 とヒヒジジイのような実にいやらしい笑みにその顔を変える。
「ンで」
 残されたレコードとリスト、そしてなぜか手の加えられてゆく説明書。
 それらを一瞥し把握した上で、次の標的を決めるフールであった。


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企画 古戸マチコ
 文 深瀬 書き下ろし(05.09〜)

 

 

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