―― 取り返しのつかない失態 ――


『思いついたのはチャリオット。彼は二期隊メンバーの中でも気が荒い方で、常々彼とストレンジは逆ではなかったかと考える。しかし、機械と相性の良いのはチャリオットである彼の方で、つまりそうとしかならなかったのだろう。弟子のリッツとの出会いも彼らしいものだった故、リッツの属性も彼に伴うものであるのは運命と言える……なーんつって』

 ひょーほほほほと笑うフールに、ため息をつくチャリオット。
 銃器調整の帰りでもなければ、こんなところでくねくねと踊るように歩くフールとチャリオットが出会うことは稀だ。
 既にレコーダーは当初の意味を失い、フールの馬鹿笑いを延々と録音している。
 破顔一笑という言葉があるが、その破顔のまま笑い続けられると言うのは、もう既に芸なのではないだろうか。
「それで、このお題でなぜ俺の所かな? ん?」
 答え様によっては暴力も辞さない勢いを前面に押し出し、チャリオットは問う。
 その辺、弟子であるリッツに似通った所のあるおっさんであった。
 メジャー隊戦闘メンバーを自負するチャリオットは、誰よりも体格がデカイ。
 長身であることはもちろん、鍛えられた肉体はともすれば暑苦しいほどの肉の壁となって相手を粉砕する。
 拳で語らいたい年頃を過ぎたと言うのに、今だ人と人は拳で判り合えると信じている、どこか憎めない人物、それがチャリオットであった。
「取り返しがつかないかどうかはともかくとして、失態と言えばチャッピーかデビーかどっちかなーと思ったんだけどね」
 語尾にハートマークを付ける勢いで、フールは答える。
「待て。チャッピーとは誰のことだ? だれの?」
 問い、迷いなく指差されるチャリオットであった。
 ぐっと額を押さえ、それからもう一度問う。
「きっちりはっきり言ってもらおうじゃないか」
「いゃんチャッピー、判ってるく・せ・に」
 やはりハートマークが語尾についているのであった。
「……その愛称は許したかぁねぇが、ややこしくなるから今回限りは許可してやる」
「あ、チャッピーが嫌ならチャーリーでもいいよん」
「もはやどちらが良いかという問題ですらねぇ。はっきり言うが、どちらも認めねぇ」
「やん。チャッピーったら、照れ屋さん」
「殴って良いか? マジ本気の一撃必殺で」
「避けるよん」
 人差し指を唇の先に当てて、フールはそう返す。返された方は、忌々しげに舌打ちをする。
 このでたらめな体術使いは、ジャッジメントが放つ神速のソニックブレードも軽々かわしてしまうのだ。
 余談として、フールが非戦闘員メンバーからの暴力を避けないのは、大したダメージを受けないことを知っているからと、むしろ殴って、いや蹴って、貶めて、と言う錯綜感情を満喫する事が出来るから、だそうだ。
「まぁその辺は置いとくとして」
「騙されんぞ」
「さてそこで問題。ワタクシは何を騙そうとしているでしょうか? レポート三枚以内で提出のコト」
「……だまされんぞ」
「もうチャッピーったら真面目さん。そうカタイと人生モテないよー。いや待って硬ければ硬い方が良いという話もちらほらと」
「何処から!?」
「そんなコト、ワタクシのお口から言えることじゃございませんざまス。もう、チャッピーったらお元気さん」
「マジで殺してぇ」
「できるもんならやってごらんなさいざまス」
「おっしゃあ!」
 許可が下りたからには全力を尽くさずにはいられないチャリオットであった。

 数分後。
 騒ぎに駆けつけたプリーティスとハーミットで四方陣を、エンペラーとエンプレスで六方囲を組み、取り返しのつかない失態が起こる前に二人は取り押さえられた。
 陣の中で身動きの取れないチャリオットが、ぎちぎちと歯噛みする。
 その隣で、何時になく真面目な顔でフールは一説ぶってみた。
「取り返しのつかない失態なんて、ありそうでいて実はない。なぜなら。失態は大抵取り返しがつくからだ。事の大小により、代償の大小は変わるが、それでも取り返しはつく。取り返しのつかない失態なぞ、俺が死んだ時にしか存在しない。なーんつって」
 ちなみにフールも四方六方にしっかりばっちり固められ、動く事のままならぬ筈なのに、フールの口は良く動いていた。
「そういう事は先に言え」
 思わず脱力するその場全員の意見が一致した瞬間であった。


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企画 古戸マチコ
 文 深瀬 書き下ろし(05.09〜)

 

 

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