―― ちらちらと瞬くひかり ――


『彼女の事を語るとき、どうしても昔語りになるのは仕方がない。今でこそメジャーメンバーと言う形に落ち着いているが、当初はハイエイトと呼ばれ、そこに、彼女は属していた。正義をまとう女神、ジャスティス。彼女と会う事で俺は生きる方法を見出した』

 いつの間にか、レコーダーとリストと説明書がチャリオットの手元にあった。
 フールからの説明を受けるどころか会うことさえ拒否し、かといって首謀者のジャッジメントから聞く事は叶わず、中間者であるテンペラントから一応の説明を受け、しぶしぶながらリストを埋める羽目になったチャリオット。
 『ちらちらと瞬くひかり』と言う文字を見、その光景を思い浮かべた時、連想されるのは自分の部下ではなく彼女、ジャスティスの事だった。
 火の子が舞う業火の中、金髪をなびかせて立つ彼女の姿は、チャリオットの心の奥に今でも残り続けている。
 審判者、ジャッジメントの対の存在として在り、裁判官として果断かつ至高の存在。
 彼女と出会い、チャリオットがその存在になったのは、炎の中での断罪の為。
 今現在、ジャスティスに会う為にはいくつかの手続きが必要になる。
 彼女は『エイダム』の必要素子として、その中枢奥深くに留まっているからだ。
 こんなくだらん理由で許可が下りるものか。下りなかったらリストもレコーダーも何もかも破棄してやると心に誓ったチャリオットだったが、なぜかあっさりと許可はおり、しかも珍しく彼女は『エイダム』から一時解放された。
 そして、がちがちに固まったチャリオットと、優しさを湛えたジャスティスは、調度の良く整えられた貴賓室で落ち合う事となる。
 ちなみに。
 ジャスティスの自室は今や『エイダム』内にあり、そちらにチャリオットが招かれるわけにはいかず、チャリオットの自室は自分が調整中のためとっ散らかっており、チャリオットの嘆願の結果この場所になったのだが、まぁこの部屋にチャリオットは向いていなかった。浮きまくりである。
「久し振りです」
 思わず口調が硬くなるチャリオットに対し、ジャスティスは嫣然と微笑んだ。
「本当に。貴方のおかげで息抜きが出来ますわ」
 聖母を模した彼女の姿は、包み込む母性愛に満ちている。
 しかし、それは公正と公平の為の愛。
 全てを愛する事でゆるぎない判決を下す。
 それは、ハングマンとは絶対的に違う愛の形。
 それを知っているチャリオットは、苦い笑みを彼女に返す。
「息抜き、ですか」
「現在、C隊の調整の為に『エイダム』の作業もデータ蓄積に留めていますの。この調整が終わったら、クラリスにも私の作業の一端を担っていただくつもりですわ」
「D.D.隊の、しかも甦生班でしかないクラリスに、それをさせるつもりですか?」
「今は準備段階。レベルアップはゆっくりとしてゆくし、私にも後継者が必要なの」
「それは……?」
 聞きたくない、そう思いながら、チャリオットは問う。
「ジャッジメントと私は対よ。彼が崩壊に最も近いところにいるのなら、私だってそうだわ」
「だが、ジャッジは戦闘ダメージを受けすぎた為……」
「彼が戦闘ダメージならば、私は常に『エイダム』と言う巨大な存在を相手にしているわ。それがダメージにならなくてなんなのかしら?」
 ストレスと言う化け物。相手を自覚している時、そしてそれが自らではどうにもならないもののとき、その化け物に容赦なく削られる。
 戦う事に倦み疲れた時、それはぱっくりと自分を飲み込むのだろう。
「昔、俺が言った事を覚えていてくれるか?」
 痛切な思いすら飲み込み微笑む彼女に対し、チャリオットはゆっくりと口を開く。
 彼女が反応するより早く、チャリオットは言葉を続けた。
「アンタが必要とするなら、俺は戦う」

 それは、彼がチャリオットとなった次の日。
「アンタに、言っておきたい事がある」
 言葉を飾る事を忘れて、思いのまま、彼は彼女に告げた。
「アンタは唯一俺を愛さなくて良い。俺はアンタに愛されなくても戦える。そうしてもらった」
 そう告げたときの彼女が浮かべた表情は、表現できないものだった。
 喜び、困惑、悲しみ、憤り、それら混濁する全てを併せ持つ、笑顔。
「アンタには手駒が必要だ。指示一つで言う事を聞く手駒が。俺がそれになる」
 言い、チャリオットは自分の腕を切り開いた。
 血は、流れなかった。
「俺は機械だから」
 良く出来た皮膚の下を走る、パルス。
「アンタの勝利の為に、俺は存在する」
 その時彼女が浮かべた笑みが、彼にとっての勝利の証。

「覚えておいてくれ」
 そう告げて、チャリオットは去っていった。
「全く、なに言ってるのかしら」
 何もかも録音されているのに。そう聞こえないように呟き、ジャスティスは改めて言う。
「それで、体よく押し付けられちゃったってことね」
 ふざける様に、笑みを浮かべて。
 残されたレコーダー、リスト、説明書。
 そして、彼女の顔には笑みが。


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企画 古戸マチコ
 文 深瀬 書き下ろし(05.09〜)

 

 

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